どんなに長く続く痛みでも、「体が壊れている」わけではありません。
痛みは、あなたの体と心が協力して「もう少し休もう」「姿勢を変えよう」と知らせてくれているサインです。
この記事では、最新の疼痛科学と現場での経験をもとに、「痛みと上手に向き合う方法」を解説します。
はじめに:痛みは無視できないメッセージ
腰痛や肩こり、慢性的な関節痛に悩む人は多くいます。多くの人は痛みを「筋肉や関節の故障」や「老化のサイン」と単純に捉えがちです。しかし、現代の疼痛科学(Pain Science)では、痛みは単なる物理的損傷の指標ではなく、心と体が共同で発している重要なサインとして理解されています(Moseley, 2013)。
パーソナルトレーナーとしての経験でも、痛みを単に押さえつけるだけでは根本的な解決にはならないことを痛感しています。痛みは身体の状態だけでなく、心理状態や環境にも影響される「共同通信」であり、それを理解し、向き合うことが回復の第一歩です。
心と身体の信号としての痛み
疼痛科学の視点
オーストラリアの疼痛科学者ロリマー・モーズリー(Lorimer Moseley)は以下のように述べています。
“Pain is not an accurate measure of tissue damage. It’s a protective output of the brain.”
(痛みは損傷の正確な指標ではなく、脳の防御反応である)
痛みは単なる「体の故障信号」ではなく、脳が体を守るために作り出す警告信号です。したがって、痛みを押さえつけるだけでは根本的な解決にならず、痛みを通じて自分の体や心の状態を理解することが、回復への第一歩となります。
心理的要因と痛みの関係
痛みの感じ方には心理的要素が大きく関わります。たとえばプラセボ効果は、薬の有効成分がなくても「効く」と信じるだけで痛みが軽減する現象です。脳内では内因性オピオイド(自然の鎮痛物質)が分泌され、痛みの信号が和らぎます。
- 信頼と安心感が痛みを和らげる
クライアントが施術者を信頼している場合、身体の緊張が自然に解かれ、痛みが軽減する - 近しい関係では効果が薄い
家族や身近な人には同じ施術をしても効果が薄くなることが多い - 心理的距離感が重要
新約聖書のマルコ6章4節にあるように「預言者は自分の故郷では敬われない」ことからも、近すぎる関係では信頼が成立しにくいことが分かります
新約聖書の話は唐突ですが、私がパーソナルトレーナーとして日々、ストレッチやスポーツマッサージを指導するときに、有効であったことが、身内(両親や妻)に対してはあまり有効でないことがあります。
そういうことがある度に、イエスのこのエピソードを思い出してました。
多くの方々の不調を改善させてきましたが、身内の不調に対する改善は多少あるものの、お客様とは効果が違う。これは、心理的距離感の問題だけではないでしょうが、関連はあると思います。
イエスが行った奇跡は、もしかしたらパーソナルトレーニングでは無いでしょうが、何か医学的なアプローチだったのかもしれませんね。
痛みと向き合うための原則
痛みを理解するための原則は以下の通りです。
- 痛みを敵とみなさない
痛みは警告であり、敵ではない - 痛みは身体だけでなく心の状態も映す
不安・ストレス・怒りは痛みの強さを増幅させる - 原因を探ることより、信号として向き合う
「痛い部位を揉むだけ」では根本的な解決にならない - 信頼と安心の環境をつくる
安全な環境で心と体を解放することが重要
痛みが発生しないと多くの人は、医師の診断を受けないと思います。
医師の診断を受けて、体の異変が何なのか気づく方が多いですが、そのような方々は、もっと軽微な痛みや不快感による、体の信号を無視していることが多いです。
肩こりや腰の違和感があるとき、冷静に自分を鏡で見ることによって、姿勢が非常に悪いことに気づくことがあります。また、少しストレッチをしてみようと試みて、自分の体が如何に固くなっているか分かるときがあります。
大きな痛みというシグナルの前に現れる小さなサインを見逃さず、適切な対処をすることが、スポーツ選手としての寿命や、また健康寿命を延ばす秘訣だと思います。
実践的なセルフケアと運動例
痛みと向き合い、心と体を整える具体的な方法です。
ご一読いただくと気付かれると思いますが、特別なことは書いておりません。
きわめて簡単な内容となっております。
大切なのは、このような小さなことを、適切にこまめに行うことなのです。
大きなこと(手術や特別なトレーニング教室、高い治療院)に頼るのではなく
小さなケアの習慣化が大切です。
日常でできる身体の整え方
① 軽いストレッチ
- 腰痛の場合:
- 仰向けで膝を抱える
- 片膝ずつ胸に引き寄せ、腰回りを軽く伸ばす
- 肩こりの場合:
- 肩を軽く回す、肩甲骨を寄せて胸を開く
- ポイント:
- 痛みが出ない範囲でゆっくり行う
- 反動を使わず、呼吸を止めずに
② 運動で血流と神経の感覚を整える
- ウォーキング、軽いジョギング、スクワットなど
- 体の感覚を丁寧に意識しながら行う
- 「動かせる範囲を確認する」という意識が痛みの過剰反応を抑える
③ 筋膜や緊張をほぐす
- テニスボールやフォームローラーを使って、筋肉の緊張箇所を軽く刺激
- 痛みが強い場合は無理に押さず、軽く触れる程度
心理的アプローチ
痛みと心は密接に関係しています。以下は日常でできる心理的対応法です。
① 呼吸法
- 深く息を吸い、ゆっくり吐く
- 5秒吸って、7秒吐くを繰り返す
- 副交感神経を優位にして、緊張や痛みを和らげる
② マインドフルネス
- 「痛みを観察する」だけの時間を作る
- 「痛い、嫌だ」と反発せず、「今、ここに痛みがある」と受け止める
- 脳の防御反応を落ち着ける効果
③ 認知の書き換え
- 「痛み=危険」ではなく「痛み=体からの情報」と捉える
- 不安や恐怖が痛みを増幅することを自覚する
信頼関係を活かすアプローチ
- 自分にとって信頼できる相手(施術者、トレーナー、医療者)と接する
- 安心できる環境で施術や運動を行う
- 家族に施術してもらう場合は「無理に押す」より「触れる・支える」を意識する
- 心理的距離が近すぎる場合は、セルフケアや第三者に頼る
日常生活での注意点
- 姿勢の見直し
- 長時間座りっぱなしは避ける
- デスクワークは腰を立てる意識を持つ
- 体の使い方を確認
- 重い物を持つときは膝を曲げて持ち上げる
- 日常動作でも「体のどこに負荷がかかるか」を意識
- 生活習慣の調整
- 睡眠不足やストレスが痛みを増幅する
- 食事や休養も痛みの管理に影響する
もちろん、現代社会において、上記のことは簡単なことではありません。
思い切って職を変えるなどの方法が必要になってしまう方もいるでしょう。
そのような極端な方法をとる必要はもちろんありません。
しかし、原則として、ご自身の不調は、体を守るために必要なことができていないので、
どうしても不調が出てしまう。
では、それができない代わりに何をすべきかと考えるためには、このような当たり前を
知っておく必要があるでしょう。
結論
- 痛みは体の故障ではなく、心と体の共同メッセージ
- 痛みを無視せず向き合うことが、根本的回復への第一歩
- セルフケア、運動、心理的アプローチを組み合わせることで、痛みは管理可能
- 信頼と安心の環境が回復を加速する
「心と体の信号である痛みを無視せずに、向き合うことでしか、不調は解決しない」
痛みを敵とみなすのではなく、体と心からの共同通信として受け取り、日常でこまめに対応することが、慢性痛・腰痛・肩こりからの回復には大切です。
参考文献
- Moseley, L., & Flor, H. (2012). Targeting cortical representations in the treatment of chronic pain: A review. Neurorehabilitation and Neural Repair, 26(6), 646–652.
- Moseley, L., & Butler, D. S. (2013). Explain Pain (2nd ed.). Noigroup Publications.
- Moseley, L. (2007). Reconciling pain and the brain: The neuroscience of pain perception. Clinical Journal of Pain, 23(1), 1–8.
- Eccleston, C., & Crombez, G. (1999). Pain demands attention: A cognitive–affective model of the interruptive function of pain. Psychological Bulletin, 125(3), 356–366.


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