要約
自分軸とは、何があっても自分を見失わないための「内なる重心」である。
失敗や他者の意見に揺れることは悪いことではない。むしろ、揺れながらも自分に戻れることが、
本当の強さ=泰然自若の生き方につながる。
はじめに
人生において「ブレない人」はたしかに魅力的に映ります。
しかし、ブレないことそのものが目的になると、かえって心が固くなってしまう。
「軸を持つ」とは、決して動かないことではなく、
揺れても戻れることだと、私は思っています。
では、どうすれば失敗や迷いを味方にし、
揺るがぬ心――泰然自若な自分軸を育てられるのか。
その道筋を、今回は整理してみます。
1.自分軸とは「戻るための場所」
自分軸という言葉を聞くと、多くの人が「強い意志」や「信念」を思い浮かべます。
しかし、本来の自分軸とは“強固な柱”ではなく、“重心”のようなものです。
私たちは日々、環境や人間関係に影響を受けます。
焦り、嫉妬、比較、失敗――そのたびに軸は揺れる。
けれど、揺れたあとに「自分の原点」に戻れればいいのです。
戻る場所を持つ人は、どんな状況でも再び立ち上がれます。
それが、精神的に安定した人の共通点です。
武道においても、攻撃重視の構え、防御重視の構えなどありますが、
強い人は、攻守共に即座に対応できる重心を保っています。
攻撃にのめり込めば、引き込まれたとき弱い。
防御にのめり込めば、押し倒されやすい。
考えてみれば当然なのですが、実戦の最中、そういう状態に陥ることは多い。
人生への姿勢、重心管理もまた、一緒のように思います。
自分の軸を持つとは、攻めにも受けにも対応できる自分なりの重心を知ることかもしれません。
2.失敗を「軸の補強材」として使う
多くの人は、失敗を「軸が折れた証拠」と感じます。
ですが実際は、失敗こそが軸を強くする最高の材料です。
鉄を鍛えるとき、何度も叩かれ、熱せられ、冷やされる。
その繰り返しで、刀のようにしなやかで折れない鋼になる。
人も同じです。
失敗によって自分の未熟さを知り、価値観を見直すたびに、
軸の位置はより「自分らしい場所」に近づいていきます。
失敗=軸の補強作業。
そう捉えるだけで、立ち直り方が変わります。
というのも、多くの人は、能力の有無以上に、
出来事に対する立ち位置を見誤ったことによって、失敗をします。
例えば、私の場合は、新しいことに挑戦するときは、
要領が悪く、呑み込みが遅いので、新参者として一定のスキルが身につくまでは、
下手に下手に教えを請います。
全体像を掴んだら、ひたすらに反復して、いつの間にか場を仕切れるレベルになるスタンスです。
私にとっては、このようなスタンスで物事に臨むのが、無理もなくやれるスタイルです。
しかしながら、天才的な人は、下手に教えを乞うことがストレスでできない人もいるかもしれません。
いきなり全部を見て、覚えてしまってこなす方が彼には良いかもしれません。
だけど、私にはそのようなスタイルは不可能で、彼と同じようにしようとすれば、挫折の数が徒に増えるだけだと思います。
要は、人によって、課題に対する得意なアプローチ法は異なり、
そのスタイルは、いろいろな課題とぶつかってみて初めて確立されるということです。
3.他者の声に「揺れない」のではなく、「使う」
自分軸を持とうとすると、「他人に流されないように」と思いがちです。
けれど、人は誰しも社会の中で生きています。
他者の声を完全に無視することは、孤立を招くだけ。
大切なのは、「誰の意見に反応するか」を選ぶこと。
他人の言葉に心が揺れたときは、それが“今の自分の課題”を示しているサインです。
腹が立つ言葉ほど、実は自分が一番気にしているテーマだったりします。
そうした反応を、自己理解の材料として使う。
それが、柔らかくて折れない軸を育てるコツです。
一般的な仕事はともかく、人生において起こる出来事の全ては、
初見の出来事で、正しい手順のないものがほとんどです。
その時に、有効な手段は、周りの人間の意見を素直に聞き、その意見を論理的に取捨選択する能力です。
そしてそうした時に、耳に痛いような発言、自分を非難している、能力不足をあげつらわれているように聞こえる意見こそ、解決の糸口になったりします。
讒言の全部を文字通りに受け取り、そのまま実践する必要はありませんが、論理的知見をもって、発言を取捨選択して、自分の力に変えていくためには、まずは謙虚な心。そして、人の発言に振り回されてきた経験値がモノを言います。
結局、振り回されても、自身の軸をもって判断することで、そのような讒言を自分の武器へ変えられる能力が身につくのです。
4.しなやかな軸は、日々の小さな選択で作られる
自分軸は、一度決めて終わるものではありません。
日々の小さな選択の積み重ねでしか育ちません。
「今日はこれをやる」
「自分のペースで進む」
「誰かに流されても、戻ればいい」
そんな小さな「自分との約束」を守るたびに、
心の中の“重心”は安定していきます。
続けるほど、外の出来事に左右されにくくなり、
静かな強さ――泰然自若の境地に近づいていくのです。
まとめ
自分軸とは、「変わらない」ためのものではなく、
「戻ってこれる」ためのもの。
失敗しても、迷っても、他人に揺らされてもいい。
何度でも立ち上がり、自分に帰れる人こそ、
本当にブレない人なのです。
泰然自若とは、無感情でいることではありません。
むしろ、何を感じても折れないほどの柔らかさを持つこと。
その柔らかさこそが、揺れても折れない『自分軸』の本質です。


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